安価なウォーハンマー旋風と「プレイしないメイドさん」が映す課題
2025/08/31
安価なウォーハンマー旋風と「プレイしないメイドさん」が映す課題
■創刊号499円の衝撃
アシェットの「週刊ウォーハンマー」は、創刊号で1万円超のミニチュアがわずか499円、第2号1,499円、以降2,499円で全90号という仕組みです。合計すれば毎号、1万円を超えるアイテムが揃い、書店やSNSで既に話題沸騰。価格のインパクトは絶大で、「ウォーハンマーって始めやすいんだ」と思わせる力を持っています。
しかし、この“入口の安さ”が与える影響は単純ではありません。
■良い点
裾野の拡大と学びやすさという観点からこれは優れた企画だと思っています。
参入障壁の低下:高価なイメージの強いウォーハンマーを、誰でも試せるようになった。
スモールステップ学習:冊子と少量のミニチュアで、塗装・組立・ルールを段階的に学べる。難解なプレイルールが毎週分割されて説明され、その内容を使った一人でも遊べるミニゲームストーリーが提案されるのは、参入障壁を下げる強力なツールになると思われます。
共通体験の場:同じ号を多くの人が同時に入手することで「これ塗った?」「この号の武器どう?」と、SNSや店頭で話題が生まれる可能性があります。
■悪い点
ウォーハンマー関連は全体として高額なアイテム揃いですが・・・
価格感覚の揺らぎと既存市場への影響
正規商品が割高に見える:499円で1万円分という体験は強烈なアンカリング効果を持ち、通常販売の価格に「高い」という印象を与えてしまう。
買い控え現象:前回の「IMPERIUM」(2023年1月開始)のときもそうだったようですが、「週刊誌で揃うから正規キットは後回し」という心理が広がり、店舗販売は一時的に低迷しそうです。
途中離脱のリスク:90号という長期構成は、スペース・資金・モチベーションである程度の離脱者を生むことは確実です。人気号だけが店頭から消え、中間号が在庫化する可能性も大きくなります。
■「IMPERIUM」からの学び
2023年の「IMPERIUM」では、序盤こそ爆発的に売れたようですが、数ヶ月経つと「定期購読派」と「摘み買い派」に二極化したとのことです。結果として最後まで継続できた人は少なかったようです。今回も同様の流れが予想されますが、SNSや動画配信の普及で、美プラやガンプラからの“越境勢”がより広く取り込まれる可能性がある点は、2025年版ならではの特徴といえます。
■ねろこさんの矛盾:「塗る人」から「遊ぶ人」へ
まつり堂模型店のモデラーメイド・ねろこさんは、ペイント技術は抜群で、塗装実演は多くの方に喜ばれています。しかしゲームプレイは勉強中で全くできません。つまりウォーハンマーの“半分の魅力”しか体験していない立場となります。
この姿は、多くの新規層を象徴していると思います。「塗るのは楽しいけど、遊び方は分からない」「難しそうだから手を出さない」――そういう人が、果たしてゲームプレイヤーになるのかどうか。
その答えは、遊ぶ場と導線をどう用意するかにかかっています。
・いきなり大規模戦ではなく、「3体 vs 3体」のお試し卓
・ねろこさん自身も「一緒に覚える」姿を見せることで、初心者が安心して挑める雰囲気を作り、「自分で塗ったミニチュアを実際に動かして遊ぶ」体験を仕掛ける
問題は人員とスペースの制約で、教えるスタッフや卓の維持は容易ではありません。それでも、この「塗るだけ派」を「遊ぶ派」にどう橋渡しするかが、今後の市場定着の分岐点になると思います。
■参入したばかりの店が直面する低迷
まつり堂模型店は、ウォーハンマーを扱い始めて数ヶ月の新参です。初期は「珍しい!」と注目を集めたものの、すぐに販売は伸び悩みました。
プレイ環境が根付いていない地域では、買っても遊ぶ場がない
「週刊シリーズがあるから、とりあえずそちらで」という流れが起こりやすいと思われ、結果として、店舗の正規キットやペイント用品の回転は鈍ります。
これは多くの小規模模型店が抱える共通の悩みで、「売るだけ」では限界があることを改めて突きつけられています。
■まつり堂模型店の次の一手
この状況を「脅威」で終わらせないためにやるべきことは:
“最初の1勝”を体験できる卓の提供
ペイントとゲームを繋ぐ小イベント(塗ったミニチュアで1ターン遊んでみよう!企画)
店長とねろこさんの二人三脚:「塗るのはねろこさん、遊び方は店長」という分業で、入口から奥行きまでを案内する
「塗れれば十分」と思っている人に、「遊ぶ楽しさ」まで届けられるか。そこがまつり堂模型店の挑戦です。
■市場予測
短期の痛み、長期のチャンス
短期的には、安価な週刊シリーズによって正規商品の販売は鈍化すると思われますが、もともとたいしてミニチュアの売れていないまつり堂模型店にとっては大きな問題ではないように考えています。一方で、裾野が広がった分、その先を受け止められる店舗にはチャンスが訪れそうです。
また、経験豊富なコアな層は通常品から週刊品への移行はたぶんないと思うので、既存店の売り上げにもさほど影響は与えないのでは無いかと思います。とすると問題は、通常品派と週刊品派の二極化かも知れません。
2025年秋~冬:499円効果で新規層が急増
2026年春:二極化が進む。ここで遊び体験を提供できるかが勝負
1年後以降:定着したプレイヤーが、正規キットやペイント需要を押し上げる・・・といいなぁ💦
■結論
安価なウォーハンマー旋風は、価格感覚を揺さぶり、販売現場に痛みをもたらしそうです。しかし、新規参入店にとっては、新規層を掴む最大のチャンスでもあります。
ねろこさんのように「塗るだけで止まっている人」を、どうやって「遊ぶ人」に変えていくか。
その挑戦こそが、まつり堂模型店のウォーハンマービジネスの未来を決めるカギだと、考えています。