人気と不人気の分断 ― ガンプラ再販と供給のゆがみが生む騒動
2025/08/31
人気と不人気の分断 ― ガンプラ再販と供給のゆがみが生む騒動
「池袋の量販店で、MGプロヴィデンスガンダムをめぐってパニックのような騒ぎが起き、他のガンプラが踏み荒らされたらしい」――そんな話をXで目にしました。Xの情報だけでは真実は確認できないのですが、もし本当にそうした光景があったとしたら、店長として心から憂うばかりです。
■ 趣味が“戦場”になる時代
ここ数年、ガンプラ新作の発売日には、しばしば混乱や争奪戦のような光景が報じられます。本来、ガンプラは作って楽しむためのもの。静かに箱を開け、説明書を読み、ランナーを眺め、ひとつひとつパーツを組み立てる――その過程こそが醍醐味です。
ところが、発売日には“奪い合う対象”として扱われ、売り場が戦場化してしまう。これでは、ガンプラの本来の価値が歪められてしまいます。
■ プロヴィデンスは珍重され、エピオンが踏みにじられる背景
今回の騒動で象徴的なのは(あくまでもXで拡散されている情報ですが)、「プロヴィデンスは大切に奪い合われ、エピオンは踏みつけにされた」という構図です。なぜこうした差が生まれるのか。背景には、今のガンプラ市場のゆがんだ現実があります。
いまや人気商品や話題の新製品にだけニーズが極端に集中し、それ以外のキットは見向きもされない状況です。プロヴィデンスのようにタイムリーに話題作に登場し、SNSでも注目される機体は一瞬で奪い合いになります。その一方で、エピオンのように世代や文脈によっては十分に魅力的であっても、今の主流トレンドから外れてしまった機体は“棚の肥やし”のように扱われがちです。
そして問題なのは、模型店の仕入れ構造です。人気商品は店頭に十分に回ってこず、不人気とされる商品ばかりが残る。結果として「欲しい商品はどこにもないのに、欲しくない商品ばかりが積み重なる」売り場が生まれてしまいます。これは販売店にとって大きなジレンマであり、お客様にとっても不満の源泉です。
この状況の背後には、いわゆるバンダイ商法に対する不満があります。「人気アイテムはごく限られた出荷、売り場には余剰の不人気アイテム」という構図が繰り返されることで、お客様の間には「本当に欲しい商品は正規ルートでは手に入らないのでは」という不信感が芽生えてしまうのです。模型店としても、ただ仕入れるだけでは解決できないこの矛盾に不安を抱かざるを得ません。
つまり、今回の「プロヴィデンスが珍重され、エピオンが踏みにじられる」現象は、単に一つの騒動の中で起きた偶然ではなく、人気の集中と供給の偏在、そして商流そのものへの不信が作り出した縮図だといえるのです。
■ 店長としての願い
ガンプラは、どのキットにも開発者の情熱が注ぎ込まれています。プロヴィデンスも、エピオンも、そしてその他のすべてのガンプラも、等しく「楽しむべき趣味の対象」です。
もし人気の差があっても、決して他のキットを粗末にしてよいはずがありません。ましてや、足で商品を踏みつけるなどということは、私の常識ではあり得ないことですし、もしあったとしたら決して許されるべき行為ではありません。
私たちが大切にしたいのは「欲しいものを手に入れる瞬間」だけでなく、「買ったすべてのキットを愛おしむ時間」です。そこに立ち返らなければ、どれほどの名キットが再販されても、結局は“騒動”だけが記憶に残ってしまいます。
模型店の願いはひとつ。ガンプラが“争奪戦の道具”ではなく、“模型を楽しむきっかけ”であり続けてほしい、ということです。