悩みすぎて買えない子供たちへ
2025/09/08
悩みすぎて買えない子供たちへ
週末のまつり堂模型店には、親子連れのお客様がよくご来店くださいます。小学生くらいの子供たちが、目を輝かせて「今日は戦艦大和を買うぞ!」とやってくるのですが、ここでちょっとした“落とし穴”が待っています。
実は、大和のプラモデルだけでも6種類、7種類と並んでいるのです。メーカーも違えばスケールも違う。フルハルモデルもあればウォーターラインもある。モデルになった年代も違う。説明を求められれば、もちろん私は一つひとつ違いを解説しますし、「迷ったらタミヤの1/700がベスト」とアドバイスもします。
ところが、いざ選ぶ段になると子供たちは迷いに迷ってしまうのです。大和が欲しい気持ちは変わらないのに、選択肢の多さに頭がいっぱいになり、結局決められないまま「今日はやめておこうか」と帰ってしまう親子が少なくありません。
今はアマゾンの画面などで、1枚の写真だけを見てどれかを安直に決める時代です。そんな時代に、実物を見ながら、箱を手に取って、時には箱を開けて中のパーツを見ながら、時間をかけて悩むこともよい体験だと思います。これはまさに、模型店だからこそ味わえる特別な体験です。箱の質感、重さ、パッケージ写真の迫力、ランナーの細かさや説明書の分量――それらは画面越しでは決して伝わってきません。模型店の棚の前に立って、実際に手に取り、目で確かめて、家に持ち帰る姿を想像しながら悩む。これは“買う前から始まる模型作り”といっても過言ではないでしょう。
店としては「買っていただけなかった」という現実は正直もどかしいところです。ですが同時に、子供たちが“本気で悩む”姿を目の当たりにできるのもまた、模型店ならではの光景だと思っています。ゲームやお菓子のように流行に流されるだけの瞬間的な選択ではなく、長い時間をかけて真剣に「どのキットを作ろうか」と考える――それ自体が、模型という趣味の奥深さを物語っているように感じます。
もし私からひとつだけアドバイスできるとしたら、「最初の一歩は、深く考えすぎず直感で選んでみること」です。たとえ失敗しても、その経験が次の模型選びをもっと楽しくしてくれますし、“一隻目の大和”がその子の模型人生を大きく育てていくはずです。
悩みすぎて買えなかった子供たちが、数日後や数週間後に、決意を固めて再び「やっぱりこれが欲しい」と戻ってきてくれる瞬間を、私は心から楽しみにしています。