まつり堂模型店

下関の朝に溶け込む光景

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下関の朝に溶け込む光景

下関の朝に溶け込む光景

2025/11/06

下関の朝に溶け込む光景

まだ夜の名残を残した下関の空に、わずかな白みが滲むころ。唐戸市場の建物が、まるで巨大な提灯のように煌々と光を放っている。あの光は、港町に暮らす者たちにとって、夜明けの合図のようなものだ。暗闇の中、軽トラックのヘッドライトがいくつも集まり、その光の海へと吸い込まれていく。荷台には、朝一番の鮮魚を積んだ氷の白い湯気。港の人々にとっては、これが一日の始まりの風景だ。

市場の裏手、海に目を向けると、関門海峡をゆっくりと滑る貨物船の灯が見える。まだ太陽は昇らず、海は墨を流したように黒い。それでも、灯だけが静かに動いている。まるで眠らぬ街の呼吸のように、一定のリズムで流れ続けている光だ。その小さな点滅を眺めていると、不思議と心が落ち着く。夜と朝のあわいにある時間は、誰もが無言のまま働く静寂の世界である。

住宅街のほとんどの家はまだ暗い。だが、ところどころに灯がついている家があり、洗面所の明かりや、台所から漏れる橙の光に、人々の生活のぬくもりを感じる。新聞配達のバイクの音、犬の散歩の足音。それぞれの朝が、ゆっくりと動き始めているのだ。

店の前にある肉屋の店先では、すでに人の声が響いている。冷蔵庫の扉が開き、刃物の金属音が鳴り、白い煙が立つ。早朝から出荷の準備に追われる姿は、町の活気そのものだ。魚の匂いと混じって漂う肉の香りが、下関という港町の豊かさを象徴しているように思う。

そして、そんな町の片隅にある「まつり堂模型店」でも、静かな朝が訪れている。まだスクリーンは閉まったままだが、店内では夜通し動き続けた3Dプリンターが、微かに唸り声を上げている。樹脂が積み重なっていく音は、まるで虫の羽音のように一定のリズムを刻み、模型たちは夜のあいだに少しずつ形を得ていく。暗い店内でその機械音だけが響くと、時間の流れがゆっくりと遠のくような感覚になる。

ふと窓の外を見れば、東の空が薄く朱に染まりはじめている。市場の喧騒、トラックの走行音、海峡を渡る汽笛、そして町のあちこちで点り始める明かり――それらがひとつの調和を奏でるように重なり、「今日も普通の日常が始まるのだ」と感じる瞬間が訪れる。特別なことは何もない。ただ、昨日と同じように誰かが働き、誰かが笑い、誰かが夢を追っている。それが何より尊いのだ。

下関の朝は、派手なドラマのような出来事はない。けれど、毎日を支える無数の灯が確かにそこにある。魚をさばく包丁の音も、肉屋の笑い声も、3Dプリンターの静かな稼働音も、すべてがこの町の「呼吸」なのだ。私はその音を聞きながら、また今日も店の灯をともす。まつり堂模型店の小さな明かりも、この町の日常を形づくるひとつの光でありたいと思いながら。

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