トミカと過ごした時間のこと
2025/11/13
トミカと過ごした時間のこと
子どものころの自分にとって、“車の模型”と言えばトミカでした。
まだトミカリミテッドもリミテッドビンテージも存在しなかった時代で、220円の小さなトミカがデパートの上の方のフロアにある玩具売り場にずらっと並んでいた頃の話です。当時、ミニカーはいたるところで売られていて、スーパーの一角にあった玩具コーナーの、透明なケースに整然と並ぶトミカたちを前にすると、胸がドキドキしたのをよく覚えています。
当時もミニカーの種類も、いろいろなメーカーのものがありましたが、「トミカ」はその頂点の存在でした。誕生日や特別な日だけでなく、ちょっと良いことがあった日には、親が「好きなの一つ選んでいいよ」と言ってくれました。
あれは今思い出しても、とても幸せな時間でした。一つのトミカを選ぶのに、こんなに悩んだことがあっただろうかというくらい迷い、自分の持っているトミカを間違えて買わないように、頭の中におもちゃ箱の映像を思い出し、それでも結局、どれを選んでも嬉しかったものです。
家には小さなトミカの列ができあがっていて、その横にはトミカパーキングや道路マップ、立体交差のスロープなどのお城のような“私の街”が広がっていました。車を走らせたり、街並みを作り変えたり、レースごっこをしたり。おもちゃで遊んでいるというより、自分だけの世界を作っていた感覚がありました。今思うと、これが私の“模型好き”の原点のひとつだったのかもしれません。
それから何十年も経って、大人になり、仕事をし、毎日忙しく過ごすようになってからふと振り返ると、大好きな車、お気に入りの車はトミカの小さな姿でずっと私のそばにありました。ただ、手に取るものが変わりました。今は、トミカリミテッドビンテージ(TLV)やトミカリミテッドビンテージNEO(TLV-NEO)を集めています。
あの頃220円で買っていたトミカが、いつの間にか“大人のための精密ミニカー”として進化しているんですから、なんとも不思議な気持ちです。TLVシリーズは造形も塗装もとても丁寧で、まるで当時の車がそのまま小さくなったような雰囲気があります。NEOシリーズでは90年代以降の車も取り上げられ、私たちの世代にはたまらないラインナップが続きます。
もちろん、ここで「まつり堂模型店でも扱っています!」と声を大にしてPRしたいわけではありません。売り込みたい、というよりも、ただ“トミカと一緒に育ってきた一人の人間として”の気持ちを書きたかっただけです。
店頭に立っていると、親子で来店されるお客様をよく見かけます。お父さんがTLVの箱を手にして、「これ、昔は街でよく見た車なんだよ」と優しい声で話しているのを見ると、子どものころの自分を思い出してしまいます。ただし、数千円するミニカーを子供さんのために買ってあげた親御さんはいまだおられませんが・・・。
ミニカーって、ただの玩具じゃなくて、世代をつなぐ小さなきっかけなんだなと感じます。大人になったお客様がTLVの棚の前で静かに車を選んでいると、その姿にどこか懐かしさを感じます。「ああ、この車の後ろ姿、かっこよかったよなぁ……」なんて小さくつぶやく方もいて、そんな瞬間を見るたびに、トミカという存在の奥深さを感じます。
飾って楽しむ人もいれば、写真を撮る人もいますし、箱のまま大切に保管する方もいます。それぞれの楽しみ方があって、どれも素敵です。
私自身、子どものころからずっとトミカと共に過ごしてきました。年齢を重ねても、小さな車を手に取ると胸が少し高鳴るのは、きっと昔から変わらない感覚なのだと思います。だからこそ、まつり堂模型店でTLVを並べるときは、どこか誇らしい気持ちになります。
このコラムを読んでくださった方が、少しでも自分の子ども時代を思い出してくださったら嬉しいです。そして、もし店頭の棚を眺める機会があれば、「昔こんなの好きだったなぁ」と思い出していただければ、それだけでトミカと一緒に歩んだ私としては本望です。
まつり堂模型店は、そんな思い出のきっかけになれる場所でありたいと思っています。これからも、小さな車たちと一緒に皆さまをお迎えしていきます。