ガンプラの狂乱に思うこと
2025/06/02
ガンプラの狂乱に思うこと
「ガンプラ、入ってますか?」
模型店を営んでいると、何度もこのセリフを聞きます。
その問いかけの向こうにあるのは、期待と焦りと、少しの苛立ち。
そして、その背後にある“ガンプラという現象”に、今日は少しだけ思うところを綴ってみます。
不機嫌そうに店に入ってくる人
ある日、ドアがバタンと開き、開けたドアは閉めもせず開けっぱなしで、無言でキャラクターモデル棚へ向かう人がいました。
顔は険しく、足取りは速い。そして棚を一瞥すると、舌打ちをするように、何も言わずに帰っていく。
おそらく、欲しいキットがなかったのでしょう。
でもその“怒り”は、私たち模型店にも、他のお客様にも、静かにプレッシャーを残していきます。
その人は「好きだからこそ欲しい」「手に入らないからこそ怒りたくなる」のでしょう。(転売用の商品が手に入らないから苛立たしい・・・とは思いたくないですね)
届いた段ボールをにらみ続ける人
またある日、問屋さんから届いた段ボール箱を、鋭い目でにらみつけるお客様がいました。
「今、ガンプラ入ってますか?」と聞かれる前に、「その箱、開けてくれませんか」と。
でも、その中にはガンプラが入っていないことも多いのです。
鉄道模型だったり、美少女プラモだったり、ドール服だったり……。
そのたびに、期待と落胆の交錯が、店内に静かに漂います。
まつり堂は“少し遅れて届く店”です
実は、まつり堂模型店には、ガンプラの新作・再販は発売日より少し遅れて届くことが多いのです。
そのおかげで、狂騒の波が少しだけ静まった後に、お客様がのんびり訪れてくださる。
おかげでうちは、ちょっと平和です。
ただしそのぶん、「発売日ゲット!」という熱気には乗れませんし、数量もごくわずか。結果、
「自分の分が買えず、新作ガンプラを組んだことがない模型店店主」という、笑うに笑えない現象も起こります。
赤いガンダムの“無理ゲー”仕様
今回話題になっている赤いガンダム。
出撃時を再現するには、ビットが6つ必要なのに、1キットには2つしか入っていないというメーカーの設計。
つまり、理想の状態にするには3キット買わなければいけない。
これには、さすがに多くのお客様が苦笑い。
「さすがにこれは…」「商売っ気が強すぎる…」
模型は本来、作って楽しい・飾って嬉しい趣味であるはずなのに、不満と疲労を与える設計になっていることが残念です。
ガンプラ引退という言葉
そして最近よく耳にするようになったのが「ガンプラ引退します」というセリフ。
好きだからこそ、熱中したからこそ、疲れてしまった。
争奪戦に疲れ、転売屋に辟易し、「もういいや」と感じてしまう。
悲しいけれど、模型趣味が“競争”や“消耗”になってしまうと、楽しさは消えてしまいます。
本当は、模型は「ひとりで静かに没頭する贅沢な時間」であってほしいのです。
模型屋として、願うこと
私は、模型屋です。
模型が好きで、作ることが楽しくて、誰かにもその楽しさを伝えたくて、この店を始めました。
だからこそ願うのです。
ガンプラが、争いの種ではなく、喜びの種であってほしい。
「欲しいものが手に入らない」という現実は、模型店としても本当に心苦しい。
でもその苦しさを、怒りや疑いの形で他人に向けずにいてもらえたら……と思います。
どんな趣味も、楽しさがなければ続きません。
今、ガンプラというジャンルが好きでいることが“疲れること”になってしまっているなら、
それはもう、誰も幸せになれない構造です。
理想的には、みんながほしいものを、必要なだけ買える世界。
でも現実はそうではないからこそ、せめて、お客様一人ひとりが「買えなくても、また来よう」と思える場所でありたい。
私たちまつり堂模型店は、模型を“楽しむ場所”として存在し続けたいと、心から願っています。
それでも模型は楽しい。
ガンプラも、美プラも、戦車も、艦船も、ドールも。
それぞれに、手に取った人の時間と想いが込められるものです。
まつり堂模型店は、そんな“楽しい模型”をこれからも静かに応援していきたいと思っています。