まつり堂模型店

街の新規開店弱小模型店がガンプラを売れるようになるまで

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街の新規開店弱小模型店がガンプラを売れるようになるまで

街の新規開店弱小模型店がガンプラを売れるようになるまで

2025/08/08

街の新規開店弱小模型店がガンプラを売れるようになるまで

まつり堂模型店が2024年12月にオープンしたのは、山口県下関市。ごく普通の地方都市の片隅。
全国に名を轟かせるような大手チェーン店ではなく、店主が長年夢見てきた「模型専門店」を小さく、静かに始めたものでした。

当初、店頭に並んでいたガンプラは、お店で「中古品」を意味する「なべもの用」と書かれたステッカーが貼られたものばかり。それも、ただの在庫ではなく、店主自身が何十年もかけて集めてきたプラモデルのコレクションを、一点一点丁寧に清掃・ラッピング・価格付けして出したものでした。その結果、売り場のキャラクター物が並んだ棚には「昔の名作ガンプラ」や「ちょっと懐かしいガンプラ」がずらりと並んでいました。

しかし、開店してすぐに気づかされたのは、来店されたお客様がどれほど「新作ガンプラ」に期待しているかということでした。親子連れ、小中学生、社会人モデラー、年配の方まで――ほぼすべての世代の方々が「今日発売のガンプラありますか?」と尋ねてきます。

ですが、その問いに「すみません、まだ取り扱えないんです」としか答えられない日々が続きました。

実は、ガンプラの仕入れには独特の事情があります。ガンプラの発注には、年に数回の「発注受付期間」が存在し、その期間中に正式な発注をして、初めて納品が可能になるという仕組み。しかも、新規開店の場合、開店直後では発注可能期間にタイミングが合わないことがほとんどです。

つまり、「店を出したからには、すぐにガンプラを並べられる」と思っていたら大間違い。開店から数ヶ月は、どれだけ熱意があっても、ガンプラは一切仕入れられないのです。

「なぜ模型屋なのに、ガンプラを置いてないんだ?」と、心の中で思ったお客様もいたことでしょう。そうしたおたずねを頂いた多くの方が明らかに落胆された様子でお帰りになられ、私たちとしても苦しい思いと、このまま新規顧客がつかないのではないかという恐怖体験をしました。

もちろん、まつり堂模型店の方針としては、ガンプラ偏重にはならないようにしています。まつり堂模型店は、美少女プラモデル、Nゲージ鉄道模型、ウォーハンマー、ドールといった“尖った”商品群を柱に、幅広いモデラーに楽しんでもらえる店を目指しています。特に、実演・接客を行うモデラーメイド「ねろこさん」による提案型接客は、ガンプラ以外のジャンルにこそ真価を発揮しています。

ですが、現実にはガンプラの存在感は圧倒的。模型という言葉を聞いて、真っ先に「ガンダム」を思い浮かべる方が圧倒的に多いのです。そんな中で、新作・再販品を何も置いていない状態が続くというのは、やはり模型店としては“名刺を忘れて出社した”ような感覚でした。

そんなある日、ようやく問屋さんから届いたのです。ガンダムの注文書が。初めてエクセルに書かれた商品一覧を目にしたときの、あの高揚感といったら忘れられません。

リストに並ぶ商品群――HG、RG、MG、それぞれのキットの名前がズラリと並んでいて、「この中からうちの店にも届くかもしれない」と思っただけで、胸が熱くなりました。

もちろん、人気商品が必ず手に入るとは限りません。発注リストに入れても、後日送られてくる「出荷数リスト」で、注文し多数が入手できないことを意味する「ショート」の文字を見てがっかりすることもあります。

それでも、「いまこの瞬間、ガンプラの仕入れをしている」という事実そのものが、新規店にとっては誇りでした。

ネットでは「ガンプラを一個仕入れるために、売れない在庫を段ボール一箱分も仕入れさせられる」などという話がまことしやかに語られています。ですが、実際のところ、そうした抱き合わせのような露骨な条件は見当たりません。届けられた大きな段ボール箱には、様々なガンプラがギッシリと満たされていました。むしろ、正しく情報を受け取り、必要な商流に乗ることができれば、普通に商売として成立するというのが、今のところの実感です。都市伝説は都市伝説、現場には現場のリアルがあります。

そして実際に、初めてのガンプラが入荷してきた日。入荷作業をしながら、箱に印刷された「GUNPLA」の文字を見て、思わず手を止めました。棚に並べるときも、自然と姿勢が正されていたのを覚えています。 店頭にガンプラが並ぶ。それだけで、お客様の反応がまったく変わりました。
「あれ、ガンプラあるじゃん!」
「最近入るようになったんですか?」
と、何人もの方が足を止め、立ち寄ってくださるようになりました。

私たちは今でも、ガンプラを大量に扱っているわけではありません。仕入れ可能な量には限りがありますし、他ジャンルとのバランスを保つことも大事にしています。ですが、ガンプラが「あるかないか」で、お店の印象がここまで違うのかと驚かされました。

ガンプラという存在は、たった一つ棚に並んでいるだけでも、「この店はちゃんとした模型屋だ」と思ってもらえる力を持っています。例えるなら、模型屋にとっての“暖簾”のようなものかもしれません。

十分な数のガンプラを仕入れることができない弱小模型店にとって、ガンプラは売上の主軸ではないかもしれません。でも、模型ファンとの接点の重要な一つとなり、模型の世界の奥深さへと誘う「入口」としての役割を持っています。

だからこそ、私たちはこれからも、数こそ多くなくとも、誇りをもってガンプラを取り扱っていきたいと思います。 新規開店模型店が、ガンプラを並べるということ。それは単なる「商品」の一つではなく、「この街にも模型屋がある」という旗を掲げる行為であり、小さくても確かな宣言なのです。

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