「模型を作る部屋」が特集されにくい理由と、私の9畳模型部屋

「模型を作る部屋」が特集されにくい理由と、私の9畳模型部屋

先日、お店の近くのコンビニで「男の隠れ家 2025年10月号」を購入しました。特集は「最高の趣味部屋を作りたい」。書斎やオーディオルーム、コレクション展示といった夢の空間が次々と紹介され、ページをめくるだけで豊かな時間が過ごせました。しかし、そこで一つ気づいたのは、ホビーの部屋に関しては“収集する空間”の紹介が中心であり、“作る部屋”としての模型部屋がほとんど登場していなかったことです。

なぜ模型部屋は誌面に載りにくいのか。考えてみると、いくつもの理由が浮かびます。プラモデルやミニチュア製作には塗料や接着剤が欠かせず、ラッカー系塗料や瞬間接着剤のにおいは部屋にこもりやすいため、換気設備がなければ家族の理解を得るのは難しいでしょう。エアブラシを使えばコンプレッサーの音も響き、雑誌で紹介されるような静謐で上品でおしゃれで映える「隠れ家」のイメージとはかけ離れてしまいます。

さらに製作派なら避けられない“罪プラ”の存在もあります。積み上げられた箱はインテリアの一部というより、むしろ景観を崩す要素になりやすく、雑誌で取り上げにくいのは当然かもしれません。そして鉄道模型の大きなレイアウトは「場所を取りすぎ」と言われがちであり、美少女プラモデルやフィギュアは来客の目が気になると敬遠されることも多いのです。

それでも私たち模型趣味人は工夫を凝らし、自分だけの模型空間を作り出しています。押し入れを改造して小さな工房を仕立てる人もいれば、棚を活用して完成品を飾り、未組立の箱は隠すように収納する人もいます。机の一角に小型の塗装ブースを常設し、思い立ったときにすぐ作業できるようにするのも一つの工夫です。鉄道模型なら机をL字型にしてレイアウトを常設し、キャラクターモデルなら小さなジオラマを並べて展示コーナーを作る──こうした知恵の積み重ねが、夢の模型部屋を現実に近づけていきます。

実を言うと、店長おびおも夢の空間を手に入れることができました。子どもが自立して家を出たあと、空いた子供部屋二部屋を活かし、壁を抜いて約9畳のスペースを確保したのです。ただし全てを模型に充てたわけではなく、片方はパソコンやカメラ、オーディオを置いた部屋に、もう片方を本格的な模型部屋にと分けました。

模型部屋では塗料を全面的に水性に切り替えてにおい対策を徹底し、エアブラシは静音性に定評のあるタミヤ製を導入しました。積みプラは見苦しく積み上げないように収納棚を新設し、家族が共有する部屋には持ち込まないようにしました。趣味の楽しさを守りながらも家族に負担をかけないよう工夫を凝らし、結果として家族生活との両立に成功したのです。

さらに模型部屋には“見せる工夫”も欠かせません。照明を工夫してショーケースにLEDライトを仕込み、完成品をただ置くのではなく、光を浴びせて映えるようにすると、部屋に入った瞬間の満足感が違います。また、工具の配置を壁面にまとめ、よく使うニッパーやピンセットを一目で取り出せるようにすると、作業効率が飛躍的に上がります。机上には自己満足ながら「作業中の一枚」を撮影できる簡易撮影スペースを設け、製作の途中経過を写真で残すことで、模型部屋がそのまま記録スタジオになるのです。

鉄道模型を常設する場合はさらに難度が上がります。レイアウトのサイズは一度作ると動かせないため、家族の生活動線を考えた配置が必須になりますし、電源配線やシーナリーパーツの保管も必要です。だからこそ鉄道模型部屋は「家族からの理解」と「長期的な計画性」が欠かせず、ほかの趣味部屋に比べて飛び抜けてハードルが高いといえます。

家族の理解や住環境は人それぞれです。しかし、塗料の種類を選ぶ、静音性の高い機材を導入する、収納を工夫して生活空間に持ち込まない──そうした一つひとつの積み重ねは、どんな住まいでも参考にできる工夫ではないかと思います。

模型部屋は、におい、音、収納、家族からの理解といった多くのハードルを越えなければ成立しません。だからこそ雑誌の「趣味部屋特集」には登場しにくいのですが、その難易度の高さこそが、逆に模型部屋を特別な存在にしているのだと思います。

趣味人一人ひとりの工夫が凝縮された模型部屋は、単なる作業場ではなく、自分の夢と歴史を刻む空間です。私の9畳模型部屋もまた、その象徴と言えるでしょう。

今日もまつり堂模型店では、「いつかは自分の模型部屋を」と夢見るお客様の声を聞きながら、その夢が叶う日を応援し続けています。