業者招待日に感じた、模型業界の“今”
2025/10/22
第63回 全日本模型ホビーショーを訪れて
10月17日、東京ビッグサイト南3-4ホールで開催された「第63回 全日本模型ホビーショー」の初日、業者招待日に足を運びました。会場には例年通りの熱気がありながらも、どこか落ち着いた空気も感じました。
今年も多くのメーカーが新製品を発表しており、特にプラモデル各社からは「期待できるラインナップ」が多数登場していました。スケールモデルからキャラクターものまで、「これは売れそうだ」と思える製品は多く見られましたが、一方で「これすごい!」と驚かされるような革新的な新製品には出会えなかった印象です。
キャラクターモデルの分野では、やはりガンプラが存在感を放っていましたが、今年は少し静かな印象でした。現在アニメ放送がなく、次回作の情報も発表されていない時期ということもあり、昨年のような熱気はやや落ち着いていました。目玉としては1/60スケールのνガンダムが挙げられますが、これは前回のホビーショーで発表済みであり、新鮮さという意味ではやや弱かったかもしれません。
その中で、キャラもの全体を見渡すと、特に注目を集めていたのが「AAAヴンダー」の小型モデルです。ランナー形状まで公開されており、造形・設計ともに完成度が高く、発売に向けての期待が高まっていました。こうした“もう一段掘り下げたマニア層向け”の製品は、安定志向の中でもしっかり存在感を示していたように感じます。
ドール分野では、アゾンインターナショナルが昨年に続き、2年連続で出展していたことが非常に印象的でした。販売店として、これは素直にうれしい出来事です。展示も丁寧で、来場者への対応も好感が持てました。今後は、ボークスや小櫃製作所といった他のドールメーカーの出展も期待したいところです。ドール市場の裾野が少しずつ広がりつつある中で、この流れを展示会全体としてさらに後押ししてほしいと感じました。
一方で、鉄道模型の展示は例年通りで、特筆すべき変化は見られませんでした。ただ、その中でKATOが自社ブースの一部を壁で仕切り、ジオラマアイテムを独立した展示スペースとして構成していたことには強い興味と好感を持ちました。展示されていたジオラマ素材は、鉄道模型の枠を超えて、情景モデラーやガンプラ、ウォーハンマーといったジャンルにも共通する魅力を感じさせました。
現在、情景づくりに取り組むモデラーの熱気は確実に高まっており、そこに対して良質な国内製品と多様な輸入アイテムを自社ラインナップとして取り揃えているKATOは、商品選びの安心感や互換性の面で他社より一歩抜きん出ていると感じました。今後もこの分野を拡充し、継続的に展開してほしいと思います。ただ一点、展示サンプルの中には水表現に物足りなさを感じるものもありました。多くのモデラーが「挑戦したいけれど難しい」と感じているのが水の表現です。だからこそ、簡単かつ美しく仕上がる水表現アイテムの登場を、KATOにはぜひ期待したいところです。
スケールモデルの分野では、AFVや艦船の新製品に関しては国内メーカーから“おお、すげぇ”と思えるような衝撃作は見られませんでした。その一方で、海外メーカーの展示には思わず「おぉ!」と声を上げたくなるような精密で魅力的な新製品が多く、造形技術や表面処理の工夫など、見どころが随所にありました。ただ、販売店の立場から見ると、海外製品はどうしても価格が高くなってしまうため、一般ユーザーに勧めにくいのが残念なところです。価格面でのハードルが下がれば、もっと多くのモデラーに手に取ってもらえるのではないかと感じました。
車やバイクの分野では、アオシマの「楽プラ」シリーズによる“はたらくくるま”攻勢が印象に残りました。パッカー車や消防車両など、普段の生活で目にする車両が手軽に組めるというテーマは、新規ユーザーの取り込みにもつながりやすく、非常に良い企画だと思います。こうした「身近な題材を模型にする」アプローチは、模型をもっと日常に近い存在にしていく上で大切な流れだと感じました。
キャラクタープラモデルは、組み立てやすさや塗装不要でも見映えする成形色、パーツの精度など、初心者を取り込む工夫が随所に見られます。一方のスケールモデルは、精密さや考証の正確さを重視する方向に進み、初心者が入りづらい雰囲気があります。その結果として、ファン層の高齢化や新規参入の減少が進んでいるようにも感じます。問屋の出荷数が減少傾向にあることも、この点と無関係ではないのかもしれません。業界全体として、そろそろ“精密さ一辺倒”だけではなく、「手軽さ」や「楽しさ」をもう一度見直す時期に来ているように思います。
サプライ関連にも注目しましたが、塗料や接着剤、パテ、ヤスリ類などの進化は著しいと感じました。新素材や新配合により、作業効率が大きく向上しています。会場でもいくつか気の利いたサプライ用品を見つけたので、今後順次まつり堂模型店の店頭にも仕入れていきたいと思います。
しかし、刃物系――つまりカッターやニッパーといった工具分野は、意外と進化が止まっているように思います。切れ味の向上は改良であっても、技術的な革新とは言えません。そろそろ、伝統工芸と融合したような“銘品”級の工具、たとえば10万円を超えるようなニッパーが登場しても良いのではないかと感じました。模型を支える道具こそ、次のブレイクスルーの主役になってほしいと思います。
また、展示会場では依然として、説明員の話を遮って知識をひけらかしたり、自分の趣味の話を延々と続けたりする来場者の姿が見られました。こうした人たちは、説明員を独り占めして他の来場者の妨げとなっており、多くの場合、業者招待日に紛れ込んだ一般参加者だと思われます。業者招待日は、本来、販売店・問屋・メディア関係者のための商談と情報交換の場です。したがって、このような一般参加者は業者招待日には入場できないよう、主催側にはより厳格な入場管理を徹底してほしいと思います。この点を改善することで、メーカー・流通・販売店が本来の目的である業界発展のための交流を、より建設的に行える場になると感じました。
それでも、多くの出展者が熱意を持って展示を行っていたことは間違いありません。安定の中にも、新しい挑戦の芽を感じる展示もありました。模型業界が再び大きく飛躍する日を信じて、私たち販売店もその一翼を担っていきたいと思います。
(まつり堂模型店 店長 おびお)