砲塔に砲身が二本? 夢のような戦車が現実にならなかった理由
2025/07/22
先日、ロケットモデルズの「フィスト・オブ・ウォー」シリーズの戦車『日本軍超重戦車オニ』を仕入れました。これは、第二次世界大戦があと二年続いていたら、どんなすごい兵器が開発されていただろうか、というのを日本軍目線で想像して作られた架空の戦車です。
この戦車の最大の見どころは、なんといってもスタイリッシュな砲塔から伸びた二本の砲身です。戦車の砲塔に、同じ大砲が二門並んでいたら――そんな姿を想像すると、どこか強そうで頼もしく感じられます。片方が故障してももう一門が控えていて、もし敵を一発で仕留められなくても、もう一発がすぐ撃てる。単純に火力が倍になりそうです。
しかし現実には、「二連装主砲」の戦車が正式に配備された例はほとんどありません。いくつかの試作例や計画案は存在しましたが、いずれも採用には至らなかったのです。では、なぜこの「主砲が二門ある戦車」は実用化されなかったのでしょうか。
まず第一の理由は、砲塔内部のスペースの問題です。戦車の砲塔の中には、主砲の砲身と砲尾、揺架、反動吸収装置、照準機器、装填装置、さらには乗員の作業スペースまでもが詰め込まれています。その中に大口径の主砲を二門詰め込もうとすれば、砲尾が干渉しあい、装填員の動きが制限されてしまいます。結果として、二門に増やしたにもかかわらず装填速度が落ちてしまうのです。
また、二門の主砲を支えるには砲塔自体も大きく、そして重くなります。『オニ』の旋回砲塔はとてもスマートですが、現実にはこんな形は成り立ちません。砲塔を支えるための砲塔リングも拡大し、車体の構造にも影響を与えます。重心が高くなれば転倒のリスクも増しますし、装甲も同じ重量では薄くなってしまいます。重くなった砲塔を旋回させるにはより強力な駆動装置が必要で、そのぶんコストも整備性も悪化します。
発射時の制御も問題です。二門を同時に撃てば反動は倍近くになり、砲塔が大きく揺れてしまいます。精密な照準が必要な戦車戦では、この揺れは命中精度の低下につながります。交互に撃てば揺れは抑えられますが、その場合は発射タイミングの管理が難しくなり、射撃統制装置も複雑になります。
そもそも、二門の砲で異なる目標を同時に攻撃することは、理論上は可能でも実戦では非常に困難です。敵の位置や距離が常に変化する戦場で、それぞれの砲で別々に照準を合わせ、撃ち分けるのは至難の業です。照準器も2系統必要になり、照準手と車長の連携も煩雑になります。
加えて、これらすべてを成立させるためのコストが跳ね上がります。砲の数が増えれば、装填装置も、部品も、整備も、すべて二倍です。訓練も、運用も、予備部品の確保も、すべてが煩雑になります。その結果として得られるメリットは、「たまに二発連続で撃てるかもしれない」という程度のものに過ぎません。これでは割が合わないのです。
大量に、しかも連続してバカスカ弾を撃てない戦車に求められているのは「一発必中」の命中精度です。現在では、照準装置やレーザー測距機、弾道コンピューター、スタビライザーといった電子機器の進歩によって、1発目で敵を撃破することが現実的に求められるようになりました。何発も撃つより、1発を正確に撃てる方が強い。そうした戦闘思想の変化も、二連装主砲を必要としなくなった大きな理由のひとつです。
もちろん、過去には二連装や多砲塔の戦車も存在しました。例えばソ連のT-28やT-35、あるいはアメリカのM3リーのように複数の砲を装備した車両はありましたが、いずれも後に単砲塔型へと設計が収束していきました。こうした歴史を見ても、主砲を二門にするという考え方は、実用性という点ではどうしても疑問が残るようです。
もし現代の技術でどうしても二連装主砲を実現しようとすれば、無人砲塔に完全自動装填装置を組み合わせ、砲口ごとに射撃制御を行う複雑なシステムを導入しなければなりません。しかし、そこまでして二門を載せるよりも、単門の性能を向上させた方がコストも信頼性も高くなります。
このように、「砲塔に砲身が二本ある戦車」は、ロマンやインパクトのあるアイデアではありますが、戦場という現実に照らしてみると、あまりにも多くのデメリットが積み重なる選択だったのです。技術的な限界、戦術的な必然、そしてコストや整備性までを考慮したとき、やはり戦車はシンプルな一門の主砲にこそ、その力を発揮できるという結論に至るのです。
日本軍超重戦車オニ、たとえ第二次世界大戦が2年長く続いて日本軍が劣勢を挽回したとしても、そんな中で開発されたオニは、まさに無用の長物の鬼っ子・・・異様な姿で生まれた子供・・・だったでしょう。
とはいえ、カッコいいことは間違いありません。プラモデルは自由です。実用性なんかゴミ箱に放り込んでオニを組んでみませんか?
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