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航空母艦「信濃」 ― 巨艦の宿命と悲劇

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航空母艦「信濃」 ― 巨艦の宿命と悲劇

航空母艦「信濃」 ― 巨艦の宿命と悲劇

2025/10/08


今日、10月8日は大日本帝国海軍 航空母艦『信濃(しなの)』が進水した日です。
まつり堂模型店では、タミヤとフジミの 1/700、ハセガワの 1/450 キットを店頭にご用意しています。

大日本帝国海軍航空母艦「信濃」は、太平洋戦争末期に登場した史上最大級の空母です。全長266メートル、基準排水量6万8千トン――その巨体は、当時世界最大の戦艦「大和」「武蔵」と同じく大和型戦艦の三番艦として建造が始まりました。しかし、この艦は完成を前にして大きく運命を変えることになります。
 

■ 戦艦から空母へ ― 急転直下の設計変更


「信濃」はもともと、1940年に呉海軍工廠で起工された大和型戦艦の3番艦として設計されていました。主砲は46センチ三連装砲を三基搭載する予定で、その火力は「大和」や「武蔵」と同等、連合艦隊の切り札として期待されていたのです。
 

しかし、1942年6月、ミッドウェー海戦で日本海軍は主力空母「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」を一挙に失いました。これにより、制空権を失った日本海軍は戦局を大きく傾けられます。

「制海権はもはや砲ではなく、航空機によって握られる」──この現実を突きつけられた海軍上層部は、急遽、建造中の戦艦「信濃」を航空母艦に改装する決断を下しました。
 

当時すでに船体の70%近くが完成しており、完全な空母としての再設計は難しかったため、「信濃」は大和型の強固な装甲構造をそのまま活かした、“戦艦の骨格を持つ空母”という異色の存在となりました。船体中央には飛行甲板を設け、下部には大規模な格納庫を設置しましたが、内部構造は戦艦時代の設計を流用したため、空母としては複雑で非効率な部分も多かったといわれます。
 

■ 空母化の背景と設計上の特徴


「信濃」の空母化は、単なる「空母不足の穴埋め」ではありませんでした。海軍は、ミッドウェー以降の戦訓として、空母の弱点である防御力の低さを克服しようとしました。従来の空母は軽量化を優先して装甲が薄く、爆撃や魚雷に対して脆弱でした。そのため、「信濃」には甲板そのものに装甲を施す“装甲空母”構造が採用されました。これはイギリスの「イラストリアス級」にも通じる発想で、飛行甲板の一部が直接防御構造となっていた点で、日本唯一の装甲空母といえます。
 

また、搭載機数はわずか47機程度と少なかったのですが、これは艦隊決戦時に前線へ整備済みの機体を輸送・補給する「航空基地支援空母」としての役割を意図していたためです。つまり、「信濃」は艦上機による戦闘空母ではなく、後方支援型の戦略空母として設計されていたのです。
 

■ 試運転も終えぬまま ― 進水と最期の航海


1944年10月8日、横須賀で「信濃」はついに進水しました。しかし、艤装はまだ未完の状態であり、防水隔壁や艦内の多くの水密扉が仮設のままでした。

11月19日、完成度は95%ほどでしたが、米軍による空襲を避けるため、早期の移動が決定されます。横須賀から呉へ向かう航海が、皮肉にも「信濃」の最初で最後の航海となりました。
 

1944年11月29日午前3時過ぎ、紀伊半島沖で「信濃」はアメリカ潜水艦アーチャーフィッシュ(USS Archerfish)に発見されます。護衛艦を伴いながら回避行動を取りましたが、巨艦であるがゆえに機動性が低く、4本の魚雷を受けて被雷しました。

未完成ゆえの防水不備と、乗員の訓練不足が致命的となり、損傷の拡大を止めることができませんでした。排水ポンプも十分に作動せず、船体は次第に右舷へ傾斜。沈没防止のための注水も間に合わず、被雷からわずか
7時間後の午前10時57分、「信濃」は沈没
しました。艦長阿部俊雄大佐以下、約1,400名のうち1,000名近くが命を落としたとされています。
 

■ 巨艦の象徴と、教訓


「信濃」の沈没は、戦局の象徴ともいえる出来事でした。戦艦としての威容と防御力を誇りながら、航空戦力の時代においてはその存在意義を見いだせず、そして空母としても完成前に失われたのです。

防御力を極限まで追求したはずの巨艦が、たった一隻の潜水艦によって沈められた事実は、技術や設計思想の転換がいかに遅れていたかを示す悲劇でもありました。
 

「信濃」の名は、戦後も多くのモデラーや軍事史家にとって特別な響きを持っています。未完成のまま沈んだ幻の空母として、模型の世界ではいまなお多くの人々の手で再現されています。それは、巨大な力と時代の流れの中で翻弄された一隻の艦が、いまも静かに語りかけてくるようでもあります。
 

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