「どぼん」の極意──失敗から立て直すモデラーの知恵
2025/11/07
プラモデルを作っていると、誰にでも一度は「塗装、やり直したい……」という瞬間があります。色が濃すぎた、ホコリが入った、ツヤがムラになった——そんな時にモデラーたちが頼るのが「どぼん」です。これは、完成間近のキットをペイントリムーバー(塗料剥離剤)に“ドボンと漬ける”ことから生まれた模型界のスラング。大胆かつ繊細なリセット術です。
■「どぼん」の目的と心構え
どぼんの目的は単純で、塗装をいったんすべて落とし、プラスチック地を再びきれいに出すこと。単に失敗を消すだけでなく、「もう少し上手く塗れるはず」という再挑戦の第一歩でもあります。うまくやれば、表面のモールドやディテールを傷めずに元の状態に戻せます。ただし焦りは禁物。塗料の種類、素材、使う溶剤によって結果は大きく変わるため、知識と慎重さが求められます。
■代表的などぼん用リムーバー
モデラーがよく使うのは、タミヤの「ペイントリムーバー」や、ガイアノーツの「フィニッシュマスター」、Mr.カラー系ならGSIクレオスの「リムーバー改」などです。これらはラッカー塗料やアクリル塗料を分解し、パーツ表面を侵さないように調整されています。
家庭用の無水エタノールやブレーキフルードを流用する人もいますが、素材によってはプラスチックを変質させる危険があるため注意が必要です。とくにABSパーツ(関節や武器など)は溶けやすいので、専用リムーバーを使うのが安全です。
■どぼんの手順
パーツを分解する
可能な限り組み立てを戻して、金属ピンやデカール部分を外しておきます。マスキングのままでは塗料が均一に落ちません。
リムーバーに漬ける
耐溶剤性の高い容器にリムーバーを注ぎ、パーツを沈めます。液面が完全に覆うようにし、常温で数時間から一晩放置します。ラッカー系なら2~3時間、アクリルならやや長めが目安です。
やわらかくなった塗膜を落とす
古い歯ブラシや綿棒で軽くこすります。強く擦るとモールドを削るので、ふやけ具合を見ながら丁寧に。
洗浄と乾燥
中性洗剤を溶かしたぬるま湯でよく洗い、乾いた布やティッシュで水分を拭き取ります。細部にリムーバーが残ると再塗装時にトラブルのもとになるので、乾燥は最低でも一晩が基本。
店長の場合
店長はほとんどどぼんしないのですが、自動車のスケールモデルでたまにどぼんします。そのための準備としては、ボディーが入る大きさのタッパウエアを用意し、その中にタミヤの「ペイントリムーバー」を 500ml(2本)投入します。
車体はそのタッパの中に放り込むわけですが、放り込んだ後に、キムタオルを車体の上からかぶせて、少ないペイントリムーバーで効率よくペイントを落とします。
ペイントリムーバーもキムタオルも何度でも繰り返し使えますので、ペイントリムーバーが減ったら補充しながら、開店以来同じリムーバーとキムタオルを使い続けています。漬け込む時間はだいたい一晩くらい。一晩して残っている塗料はキムタオルでふき取ります。
「どうせ上から再塗装するのだから」という考えで、100%の除去はしてません。落ちるだけ落とす、という感じで終わりにしています。
■どぼん後のリカバリー
塗装を落としたパーツは、表面がわずかに荒れていることがあります。600番〜1000番程度のペーパーで軽く整え、再びプライマーを吹くことで、塗料の密着性を回復できます。もしディテールが甘くなっていれば、スジ彫りを再度入れ直すのもよいでしょう。再塗装の前に「何がうまくいかなかったのか」を観察することで、次の作品が確実に上達します。
■どぼんのリスクと心得
どぼんは「最後の手段」であると同時に、「新しいスタート」でもあります。しかし、強いリムーバーを長時間使うと、プラスチックの内部まで浸透して脆くなることがあります。また、塗料によっては完全には剥がれず、微妙な残留色が出る場合も。そうした時は、無理にこすらず「サーフェイサーで整える」という選択もありです。
■再挑戦の楽しみ
どぼんは失敗を帳消しにする魔法ではなく、失敗から学ぶ時間を与えてくれる儀式のようなものです。塗装がうまくいかなかった悔しさも、どぼんの泡の中でリセットし、次はもっと美しい仕上がりを目指す。その繰り返しの中で、モデラーは確実に腕を磨いていきます。
塗料を落とすために「どぼん」する瞬間、少し勇気がいります。でも、その勇気の分だけ、あなたの模型はまた一段と輝きを増すはずです。
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