プラモデルを組む前に“洗うべき”か?
2025/11/10
――まつり堂模型店が考える、離型剤と洗浄の本当の話
最近、SNS上で「プラモデルのパーツを組み立てる前に、ブレーキクリーナーで洗うといい」「離型剤を落とすには強力な溶剤が必要」という投稿を見かけます。確かにブレーキクリーナーは油分や汚れをよく落としますが、模型の世界ではやりすぎです。模型の樹脂は車のブレーキパッドとはまったく性質が違うからです。
ブレーキクリーナーは、トルエン・アセトン・MEKなどの強溶剤を含みます。これらはポリスチレン(PS)やABSを溶かす力があり、短時間のつけ置きでも内部の可塑剤を抜いてしまいます。最初は見た目が変わらなくても、数日後にパーツが白化したり、パリッと割れたりすることがあります。
クリーナーが黄色く濁るのは「離型剤が落ちた」のではなく、プラの成分そのものが溶け出していることが多いのです。
模型を長く楽しむためには、こうした過剰な処理を避けるのが基本です。
まつり堂模型店では、国産キットには洗浄を行いません。
タミヤ、ハセガワ、アオシマ、バンダイなどの国内メーカーは、金型の管理精度が非常に高く、成形時の離型剤も最小限。むしろ「ドライ成形」と呼ばれる、離型剤をほとんど使わない製造工程も一般的になっています。したがって、塗装前の脱脂や研磨を除けば、国産プラモデルを洗う必要はありません。むしろ不必要に洗って乾燥不足になるほうが、パーツの合わせ精度を下げるリスクがあるほどです。
一方で、中国製や東欧製など、一部の海外メーカーでは状況が異なります。
金型を長期間使う都合で、離型剤を多めに噴くケースがあり、パーツ表面にうっすらと油膜が残ることがあります。これが塗装時の弾きや、接着剤のノリ不良を引き起こすこともあります。そうした場合に限り、軽く洗うことをおすすめします。
使うのは、食器用の中性洗剤が最適です。
ぬるま湯(35〜40℃程度)に少量の洗剤を溶かし、柔らかい歯ブラシで軽くこすってください。泡をよく流し、完全に乾燥させれば十分です。つけ置きする必要も、アルコールや溶剤を使う必要もありません。中性洗剤は油を乳化して落としますが、樹脂にはダメージを与えません。人の手が触れられるものなら、模型にも安全です。
実際、離型剤が塗装や接着に悪影響を与えるケースは、現在ではごくまれです。模型雑誌やSNSでは「洗うのが当たり前」と紹介されることもありますが、これは昔の製造事情が背景にあります。80〜90年代のプラキットでは、金型の精度が今ほど高くなく、離型剤の残りが問題になることもありました。しかし現代の国産キットはまったく別物です。下地処理よりも、ゲート処理・仮組み・塗装計画のほうが遥かに重要です。つまり、現代の成形技術の進歩を知らない人の昔話です。
もちろん、例外はあります。レジンキットやガレージキットのように、手作業で型抜きされる製品は離型剤が多く残ることがあるため、必ず洗浄が必要です。レジンの場合も、溶剤ではなく中性洗剤やアルコールで優しく洗いましょう。
模型製作には「手を掛ける=丁寧」という風潮がありますが、薬品を使うこと=正しい処理とは限りません。模型は“人の手で作られた樹脂の造形”です。過剰な薬剤は、模型そのものを痛めてしまう危険があります。
◆ まとめ:まつり堂模型店の推奨方針
国産キット(タミヤ、ハセガワ、バンダイ等) → 洗浄不要。
海外製キット(中国・東欧系) → 表面に油分が感じられる場合のみ、中性洗剤で軽く洗う。
レジン・ガレージキット → 必ず洗浄。中性洗剤またはアルコール使用。
ブレーキクリーナー・溶剤系の使用は非推奨。
特に漬け置きは、樹脂の可塑剤を抜いて劣化を早める恐れあり。
模型の世界は「やらない勇気」も大切です。
安全な方法で、素材をいたわりながら長く楽しむ。
それがまつり堂模型店の考える“模型への優しさ”です。
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