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多段空母の魅力 ―― 赤城・加賀からSF世界まで ――

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多段空母の魅力 ―― 赤城・加賀からSF世界まで ――

多段空母の魅力 ―― 赤城・加賀からSF世界まで ――

2025/11/17

戦艦から航空母艦へ。

20世紀前半、海軍技術の劇的な転換期に誕生したのが、多段飛行甲板を備えた“多段空母”です。
模型売り場で、三段甲板時代の赤城や加賀の箱絵を手に取ると、その異様な造形に思わず目を奪われます。
現代空母の常識で考えれば「本当にこんな形で飛行機が運用できたのか?」と思うほどですが、
この大胆な構造こそが、当時の海軍が抱えていたジレンマと工夫の結晶なのです。
 

■ 多段空母の歴史 ― “過渡期”が生んだ実験艦


多段空母といえば、旧日本海軍の航空母艦「赤城」と「加賀」がもっとも有名です。
両艦は元来、戦艦や巡洋戦艦として建造されていましたが、ワシントン海軍軍縮条約によって方針転換を迫られ、空母へと改装されました。

排水量は条約で厳しく制限され、船体の大型化は不可能です。
しかし新時代の主力兵器である航空機をできる限り多く搭載し、効率的に運用しなければなりません。
この相反する課題への回答が、「上下方向に飛行甲板を重ねる」という大胆な発想でした。
 

赤城・加賀の初期艤装では、上段・中段・下段の三つの飛行甲板が設けられていました。
現代の空母とはまったく異なる、まるで“階層構造”のような異形です。
写真で見るその姿は、現代人の目にはSF的ですらありますが、当時の技術者たちは真剣に「どうすれば限られた船体で航空戦力を最大化できるか」を考えていました。

短距離発艦が可能な軽量機は下段から、より長い助走を要する機体は上段から――。
目的に応じて甲板を使い分ける発想は、当時としては合理的だったのです。
 

■ 多段空母に求められたもの ― 制約と効率の戦い


多段空母は単なる奇抜な設計ではなく、当時の軍事的要求と技術的制約の狭間から生まれた必然の形でした。
航空機の性能はまだ低く、発艦には多くの助走距離と風向きの調整が必要でした。
船体全体を長大な飛行甲板にするには、戦艦クラスの巨大な船体が必要ですが、条約によってそれは許されません。

ならば上下方向に甲板を増やし、複数の発艦ポイントを設ける――この解決策は、まさに「縦方向の拡張」だったのです。
 

また、航空母艦という艦種そのものがまだ発展途上にあり、正しい形が定まっていませんでした。
今では当たり前の“全通平甲板が最適解”という答えは、当時の海軍にはまだ見えていませんでした。
その意味で、多段空母は“試行錯誤の象徴”でもあったのです。
 

■ 多段空母の失敗 ― 技術が追いつかなかった理想


しかし多段空母は、残念ながら実戦で期待どおりの成果を挙げたわけではありませんでした。

限界はすぐに明らかになります。

まず、下段・中段の飛行甲板は甲板上の風を十分に取り込めず、発艦に必要な揚力が得られませんでした。
また、構造が複雑になったことで、格納庫と甲板の連携が悪く、航空機の出し入れにも時間がかかりました。
さらに航空機は急速に大型化・高速化していき、短い甲板では離陸が困難となりました。
 

結局、赤城・加賀は大改装され、多段構造は完全に撤去されました。
甲板を1本にまとめた“全通甲板化”が最適解であることが明らかとなり、多段空母という形式は歴史上ごく短い期間で姿を消しました。
 

とはいえ、この“短命さ”こそが、多段空母に独特の魅力を与えているのも事実です。
現代から見ると、彼らは「空母の夜明けに現れた、一瞬の閃光」のような存在であり、模型として手に取るとそのロマンがより強く伝わってきます。
 

■ SF世界における多段空母 ― 現実の限界を超えた魅力


現実では廃れた多段空母ですが、SF作品の中ではむしろ花開いています。

写真にもある『宇宙戦艦ヤマト2199』のガミラス多層式航宙空母〈シュデルグ〉は、その代表的存在です。
宇宙空間という重力や風向きの制約がない環境では、飛行甲板は縦にも横にも幾重にも重ね放題です。
そのため、SFの多段空母は「現実では実現しなかった理想」や「空母という構造物の持つ凶悪なまでの積層美」を存分に表現する舞台になりました。
 

平面の制約を無視し、あらゆる方向に発艦口を持つ巨大空母――。
それは架空戦艦の象徴であり、模型としても圧倒的な存在感を放ちます。
現実の赤城・加賀の姿を知ったうえでSF空母を見ると、「時代が違えばこうなっていたかもしれない」という想像がさらに膨らみます。
 

■ 多段空母の魅力とは何か


多段空母の魅力は、奇抜な外観だけにあるのではありません。
そこには、時代の制限と戦略の要求が交錯した、技術者たちの真摯な挑戦が込められています。
そして現代の私たちは、その挑戦の軌跡を模型として手に取り、歴史を超えて楽しむことができます。
 

実在した赤城・加賀は“歴史の過渡期の回答”です。
SFの多段空母は“想像力が導き出した理想形”です。

この二つを並べて模型棚に置いたとき、
そこには一つの時代が終わり、また別の可能性が広がる――そんなドラマが詰まっているように思えます。
 

多段空母とは、
「歴史の中で一瞬だけ現れた実験的な美」と、
「架空世界で無限に広がるロマン」の交差点

なのです。

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