ハセガワの「サイエンスワールド シリーズ」で、宇宙に思いをはせる
2026/08/04
七夕を前に思ったこと
もうすぐ8月7日。月遅れの七夕を迎えます。
七夕といえば、天の川を隔てた織姫と彦星の物語。子どものころ、夜空を見上げて二つの星を探した経験のある方も多いのではないでしょうか。残念ながら店長おびおは子供の頃から目が悪かったので、一度も見つけることができませんでした。
ましてや、街の明かりが増えた現在では、満天の星を見る機会は少なくなりました。それでも七夕が近づくと、普段より少しだけ空が気になり、遠い宇宙へ思いをはせたくなります。
私が、そんな季節にあらためて手に取りたくなるのが、ハセガワの「サイエンスワールド シリーズ」です。
このシリーズでは、「無人宇宙貨物船HTV」のように、絶版になった商品もあるものの、ボイジャーやハッブル宇宙望遠鏡など、科学の最前線で活躍した人工衛星や宇宙探査機などがプラモデル化されています。戦車や飛行機、艦船の模型とは少し違い、戦うためではなく、「知るため」「調べるため」「宇宙へ進むため」に造られた機械を模型として楽しめるシリーズです。
私はこれまで、サイエンスワールド シリーズのキットを何度も買い、何度も組み立ててきました。同じキットを再び購入することもあります。普通なら、一度完成させれば十分と思われるかもしれません。しかし、宇宙機の模型は、不思議と繰り返し組みたくなるのです。
最初に組んだときは、全体の形を完成させるだけで精いっぱい。二度目には、アンテナや観測機器の形が気になり、三度目には、実機の写真や資料と見比べながら細部を確かめたくなります。塗装や仕上げ方を変えれば、同じキットでも印象は大きく変わります。
人工衛星や宇宙探査機の姿は、一見すると少し奇妙です。大きなパラボラアンテナ、左右に広がる太陽電池パネル、むき出しのように見える観測機器、複雑に組まれた骨組み。重力や空気抵抗から解放された、求められる機能を最大限発揮することを徹底的に追求した、ストイックな機能美があります。
しかし、その形にはすべて理由があります。
遠い地球と通信するためのアンテナ、電力を生み出すための太陽電池パネル、星や惑星を観測するためのカメラやセンサー、機体の向きを保つための装置。模型の部品を一つひとつ取り付けながら、「これは何のために付いているのだろう」「なぜこの方向を向いているのだろう」と考える。それだけで、組み立ての時間が小さな宇宙探査に変わります。
私は、人工衛星や宇宙探査機が好きすぎて、かつて『宇宙と地球を視る 人工衛星100』というカタログ本まで出版してしまいました。
残念ながらすでに絶版ですが、古書なら Amazonで買えます。
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本を書くためには、膨大な数の宇宙機について資料を集め、その目的や構造、搭載機器、運用の歴史を一つひとつ調べなければなりません。それは大変な作業でしたが、宇宙機について、それまで以上に深く知る貴重な機会にもなりました。
調べていくうちに見えてきたのは、それぞれの宇宙機に込められた、異なる設計思想です。限られた重量や電力の中で、どの機能を優先するのか。厳しい温度変化や放射線から、どのように機器を守るのか。遠い惑星へ向かう機体と、地球を見守る衛星とでは、求められる形も性能もまったく違います。
アンテナや太陽電池パネル、観測機器の配置には、任務を確実に成し遂げるための技術者たちの判断が凝縮されています。宇宙機の姿は、単に格好よくデザインされたものではありません。「何を調べ、どこへ行き、何年間働くのか」という目的から導き出された、究極の機能美なのです。
膨大な宇宙機を資料として調べるほど、その一機一機に込められた知恵と工夫、そして設計思想に心を打たれました。本を書くことで宇宙機について深く知り、知れば知るほど魅力が増していく。そして、本を書き終えたころには、以前にも増して人工衛星や宇宙探査機が好きになっていました。
人工衛星と一口にいっても、その役割は実にさまざまです。宇宙のはるか彼方を観測するもの、地球の雲や海、森の変化を見守るもの、通信や測位を支えるもの、月や惑星、小惑星へ向かうものがあります。普段の暮らしの中で、その存在を意識する機会は多くありません。しかし、天気予報や衛星放送、災害の観測、地図や位置情報など、人工衛星は私たちの生活を静かに支えています。
宇宙機は、決して無機質な機械ではありません。その小さな機体には、研究者や技術者の知恵、何年にもわたる準備、数え切れない試験、失敗を乗り越えてきた歴史が詰まっています。そして何より、「まだ誰も知らないものを見たい」という、人類の好奇心が込められています。
地球を離れ、はるかな惑星を目指す探査機。毎日、私たちの頭上から雲の動きを見守る気象衛星。宇宙の暗闇に目を凝らし、遠い銀河の光を集める宇宙望遠鏡。地球から送り出されたこれらの機体は、私たちの「目」であり「耳」であり、ときには遠い天体に触れる「手」でもあります。
宇宙の面白さは、ただ遠く、広く、謎に満ちていることだけではありません。人間が限られた技術を集め、途方もない距離や過酷な環境に挑み、少しずつ未知を既知へ変えていく。その過程にこそ、胸が躍ります。
打ち上げられた探査機は、簡単に修理へ向かうことができません。ひとたび宇宙へ旅立てば、地上から送る電波と、機体自身に備えられた機能だけが頼りです。遠く離れるほど通信には時間がかかり、機器は強い放射線や激しい温度変化にも耐えなければなりません。それでも、多くの探査機が当初の予定を超えて働き続け、私たちが見たことのない景色を届けてきました。その健気な姿に、まるで長い旅を続ける冒険者のような魅力を感じます。
個人的には、現在絶版となっている、誇るべき日本の「無人宇宙貨物船 HTV」が、いつか復活してくれるとうれしいです。国際宇宙ステーションへ物資を届けたHTVは、日本の宇宙開発を語るうえで欠かせない機体です。華々しく惑星を探査する宇宙船とは役割が違いますが、人が宇宙で活動するために必要な物資を確実に運ぶという、とても重要な仕事を担いました。あの機能美に満ちた姿を、ぜひもう一度模型として組み立てたいものです。
そして、宇宙機には、まだまだ模型化してほしい題材があります。
太陽系の外へ向かう道を切り開いた「パイオニア」、月の起源と進化を詳しく調べた月周回衛星「かぐや」、日本初の火星探査を目指した「のぞみ」、長年にわたって日本の空を見守ってきた気象衛星「ひまわり」、公にされている情報が少ないからこそ想像が広がる偵察衛星、そして小惑星の試料を地球へ持ち帰った「はやぶさ」。名前を挙げていくだけでも、人類と日本の壮大な宇宙開発史が浮かび上がってきます。
成功した機体だけでなく、目標を完全には達成できなかった探査機にも物語があります。挑戦があったからこそ、次の計画に技術と経験が受け継がれました。模型として残すことは、完成した機械の形だけでなく、その挑戦の記憶を手元に置くことでもあると思います。
ハセガワ・サイエンスワールド シリーズが、これからさらに拡充されることを期待せずにはいられません。人工衛星や探査機は、戦車や航空機ほど模型化の機会が多くない分、新しいキットが発表されたときの喜びも格別です。日本の宇宙機だけでなく、世界各国の歴史的な探査機や、これから打ち上げられる新しい宇宙機も、ぜひ立体化してほしいと思っています。
七夕の夜、空を見上げても、人工衛星や探査機の細かな姿までは見えません。しかし今この瞬間にも、地球の周囲や月、惑星間空間、さらにその先で働き続けている機体があります。点のように輝く星の向こうを、人類が造った小さな機械が旅している。そう考えるだけで、いつもの夜空が少し違って見えてきます。
模型を机の上に置けば、その小さな姿を通して、何億キロ、何十億キロという旅や、果てしない星空を想像できます。プラモデルは実物よりはるかに小さいものですが、そこから広がる想像の世界には限界がありません。
人工衛星や宇宙探査機には、夢があります。
未知の世界を知りたいという夢。遠い星へ行ってみたいという夢。地球というかけがえのない惑星を、もっと深く理解したいという夢。その夢を形にしたものが、人工衛星や宇宙探査機なのだと思います。
ハセガワのサイエンスワールド シリーズを組みながら、今年の七夕は、いつもより少し遠い宇宙へ思いをはせてみませんか。
――まつり堂模型店 店長おびお